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2019.09.11

雷がゴロゴロ言っている。
光ったかと思ったら、凄まじい音立てて何処かに落っこちる。大人になってもおっかない。地震雷火事親父 と言うが、どれもやっぱりおっかない。今日は山仕事の予定だったけど、諦めよう。

中三の夏休みの間、父に連れられ、弟と山にこもる。集中力を養えと毎日、弓を矢を持たされた。下手くそなうちは、弓を持つ左手の肘辺りがが弾かれた弦が鞭打たれ紫に染まる。弓を構え、矢の先を的の先端に向ける。心臓以外動かさずにジッと狙って放つ。フォームが良くなってきたのか、だんだん肘を擦らなくなる。遠い先で的を射抜く音がする。

残心。とか言うカッコいい言葉があって、打った後もフォームを保つ。それをするとなんだかカッコ良く思えて、ついでに上手くなってくらしい。矢はだんだんと中心に近づき、夏の終わりには全て矢が真ん中に集まる。弟と二人静かな時間。打ち尽くした矢を取りに行き、また黙々と打つ。

食事は二食。火を起こす。自炊。 それも少しずつ慣れてくる。3分を計らなくても、ちょうどいい食べ頃がわかってくる。米は一粒もこぼさずに。残さずに。朝方、夕方、ヒグラシの声が山に響く、その声は切なくて父に連れられた夏を思い出す。夜、炎を大きくし、1日を振り返り、明日を考える。 考えるのはひたすら矢の先狙う真ん中。中心。 自分の命の行き先は。子どもながら、哲学っぽいこと考えてた。

ある日の夕方。
昼なのに山の空が夜のようにいっぺんに暗くなる。雨が降る。雷が鳴る。空を切り裂くような、破るような、この世で聞いたどんな大きな音より大きな音。夏のうち半分は父は山を降りていなかったが、その日は幸い、父は一緒。とても心地良く眠れるBGMじゃないけど、父は雷に負けぬ大きなイビキ立て寝ていた。空がピンクに染まり、雨がテントを打ち付け、何度も狂ったように叫ぶ雷の音。すぐそばにも落ちたらしい。

忘れられない一日。
研ぎ澄まされた夏だった。
地震雷火事親父。

今でもたまに夢に出る父に、死んでしまったことを忘れてる自分と、覚えている自分。父が側にいる。いなくてもこの星の何処かに生きている安心感にホッとして、気が抜ける。脇役に成り下がる。

おっかなかった父に、いつも何か怒られる心当たりがある僕はビビっている。
雷落とされるような迫力。

「このデコスケがっ!!」

よく怒鳴られた。
デコスケってなんだろうと、大きくなってから調べてみたら、 “ デコボコ野郎 ” と書いてあった。 余計によくわからない。父がもう死んでる事を覚えてる時の夢は切ない。 母と美味しそうに飲んでるビール。

「こっち来いよ」

と誘われるが、これが夢と気付いてるのかわからないけど、もうすぐ消えてしまう事を知っていて、何か一言、言葉にして伝えなきゃと思う。この言葉しか見当たらず、頭を下げて

「ありがとうございました」

と親子にしては、水臭いけど、生きている間、一度も言えなかった言葉をなんとか絞り出す。 頭を上げる事が出来ずにいて、

「おいおい、なんだよ、それ。やめろよっ」

と父も照れ臭そうにしている。
そして夢がさめる。

寝て見る夢も、起きて夢見る夢も全部夢で人生も全部夢で、いつかこの世を去る時、目を閉じ、次に目を開いた時、全てが夢だったと思うのだろか。 それは死んでからのお楽しみ。死ぬ日が来るまで死なずにいたい。

父の生まれ故郷、山形。
今週末に仕事のご縁いただき、自転車にETCカード差し込み高速道路走る。東北弁喋る遠い親戚の家が何処なのか、今ではもうわからないけど、一番身近なご先祖様、そして自分の血を探りに行く。ワクワクする。血繋がらずとも、山形との縁残し、繋いでいきたい。

だんまるのFacebookより