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飛び込む海はいつもこの海

2019.12.06

先月、母の故郷に行って来た。
南房総岩井。
里帰り、飛び込む海はいつもこの海。
久しぶりに行く海、季節は冬でとても入る気にはなれなかったけど懐かしい海。
僕が思う以上に絶対きっと懐かしく思ってるだろう母。着いた初日の日以外、ずっと雨降り。楽しみにしていた、隣町の館山まるしぇのイベントも延期でガッカリ。紙芝居でなら、沢山の人と向き合えたのに。人の輪に入れるのに。

民宿していた母の実家。母の兄弟6人とその子ども、従姉妹達。僕の姉弟で4人もいるのに、沢山の人間飲み込んだ家は幼い頃大きな家に思えたのに再会した家は思ったよりも小さく、そしてへばっていた。台風大雨のせいだけでなく、長らくほったらかしにしていた家。仲良く映った母の兄弟仲は、しわの数が増えてくたびに悪く深くこじれていって、祖母祖父が居なくなってからはなんとか一人で建っている家。

海から徒歩5分。
役所からもらった土袋に砂浜から道路に飛び出した砂を詰めに行く。海の向こうに沈んでいく太陽。幼い頃の海は暑い季節の暑い時間の太陽が高いところにある海で、この夕陽を見るのは初めて。幼い頃と変わらず大きなまんまの海。そして、右手に見えた大きな山。知らなかった。富士山が見えるんだ。

山梨にいた3年間、恋しく思うのはあの山で、旅行先のホテルで見ても感動は半分。世界中、素敵なところは何処にでもあるけど、その何処にもチェックアウトの時間があって、それは他人のもので、僕の目には羨ましくしか思えない山。 思いのほか、まだまだ元気な僕の母の思い出の家。まだ、ただいまと言える家なら、自分の手で蘇らせたいと思うようになった。富士山を取り戻したい。家族親族からは、壊せばいいと言われるけど、壊すにもお金がいる。出すのは僕。そんなお金はないし、そんなふうに使いたくない僕のお金。2日目から雨の中、近所の人は危ないから登っちゃダメと言われるけど、次いつになるかわからない。母は止めてくれずに知り合いから梯子を借りて来るし、これはGOなのだと登る屋根。

役所からもらったブルーシートじゃ足りなく、買い足し登る屋根。濡れた瓦はよく滑り、何度も何度も落ちそうになるが家の裏の竹林が何度も支えてくれる。ツナギの作業着は水をちっとも弾かず、パンツの中までびっちょり。テカテカしたやつなら防水加工してあると思ったのに。惜しみなく1980円も出して買ったいいやつなのに。動いてないと、寒いのがやって来るので、止まらず仕事。その間、楽しい妄想が踊り出す。来年の夏。家族が、親戚が集まって来るのだ。

「え〜っ! これ一人でやったの?」
「見直したよ!」
「兄貴すげぇな!」

んで、母も天国のおじいちゃんおばあちゃんも喜んでくれて、また皆が集まる家になって、家族だけでなく沢山の笑顔が集まるようになって、、
ニヤニヤしてたら時間はあっという間。屋根は青く染まった。その屋根から見渡せる限りの千葉南房総の家はいくつも青い屋根。ようやくこの家も追いつけた。ここに限らず、日本中、あちこちがいつも大変で、テレビの向こうの大変がいつやって来るかわからないこのご時世。震災、天災に限らず人災とかもあって、しっかりした屋根の下、心に光届かない人も沢山いて。頑張れって言葉、すべての言葉に投げかけちゃダメって言うけど、少なくとも、僕はもっともっと頑張らなきゃならない、追っつかない人生。青い屋根の向こうに見える青い海。
うん。間を開けず年またがず、すぐに来ようと決意。

海の幸が好きな母。
北海道に行きたがるが、どうやら母が恋しいのはこの浜で食べるサザエ、アワビ、アジの刺身。いつか、いやなるだけ早く、家の中から光を灯し、家の中から元気発散し、もう一度元気な家に、元気な母に。追っつかなくて、やりかけの仕事ばかりで夢ばかりの人生だけど、これでまたひとつ生き甲斐のある人生になった。母に限らず頭固くなってく、兄弟達。幼い頃、見るもの全てが眩しく写りドキドキしたように、新しい世界幾つも見せてくれたように、今度は母の心に照らしたい。思いもしない方法でつかみ取りたい。夕焼けの砂浜で嬉しい寂しい諦めの心きっと色々な感情抱え、冷たい海に足つける母。お酒の席、聞いてもいない初恋の人の話。紙芝居で大人相手にその人の子ども時代を見つめるが、初めてそれを母に見た。母の少女時代が見える。母のずっと隣にいた人から授かった力で、抱き上げてやる。

福井県敦賀で何度目かの子ども達に何度目かの紙芝居。たくさんの元気をぶつけられ、エネルギーは注入されたのか持っていかれたのか。そのまままた東京。昨日、今日、明日と毎年、お招きいただく東京ビックサイト、エコプロダクツのお仕事。師匠が亡くなった年、僕の心に光を当ててくれた岡山美作市上山集楽の人。その人達の生き方は、もっともっと自分らしく自由に生きていい。肯定されてるようだ。いや、物足りない。もっとやれと言われてるようだ。いっそ、この輪に飛び込んでしまいたいけど、自分の手だけで、紙芝居で生きてみたい。面白いと思える人と、惚れた人と肩並べられる人間になりたい。帰り道、船橋アンデルセン公園で紙芝居。またここで楽しい発想に心を揉まれる。

8日から、また母の思い出の家、思い出の海に行くぞ。

だんまる