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ほったらかし温泉

2024.02.28

夜は星空と夜景。
朝は日の出。
日本一の山が見える、標高850メートルの山の上の温泉。
お客さんも皆帰った、真夜中の温泉。
僕は温泉掃除。
お湯が抜けるまでの時間は桶を綺麗に磨く。
カコーンカコーン。
大きな浴室、響く桶の音。
その音にかき消されたのか、気づけなかった後ろから忍び寄る人影。
 温泉の社長。
 背が高くて、おなかがポッコリしてて、白髪でショートボブのおじいさんとは思えないお爺さん。
 隣に座り僕に言う。

「だんまるくん。こうやって一つ一つ丁寧に桶を磨いていると、まるで心まで磨かれてるようでしょ?」

 白髪ショートボブのお爺さんは言葉を続ける。

「けどね、そんなの気のせいだから、チャチャッとやっちゃいなさい」

 僕は父含め、面白い大人にばかり育てられてきた。
 僕も紙芝居屋として、子ども達とその心で向き合いたい。
 
 十数年前。
 力及ばず手放した夢の地。
 だけど、紙芝居を道しるべに、紙芝居を武器にまた必ず取り戻したい。
 十数年前、その山を降りる前に描いた縦180センチ、横270センチの顔出しパネル、大きな絵を、描き変えに行ってきた。
 今では、ポッコリおなかがすっかり消えた白髪ショートボブお爺さん。
 こんなもんではすませない。
 いつか、この地で紙芝居で轟かせたい。